昨年の終わりから年明けにかけて「インフルエンザが猛威をふるっている」というニュースをよく見聞きしました。
みなさんやみなさんの周りでも、この年末年始、インフルエンザにかかった方がいらっしゃるかもしれません。
2025年の1回目は「インフルエンザの診断」がテーマです。
インフルエンザについて
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる急性呼吸器感染症です。代表的な症状は、38℃以上の発熱や寒気、関節痛、倦怠感などの全身症状と、咽頭痛や咳などの気道症状です。
多くの人にとっては「風邪のようなもの」ですが、持病がある方や高齢の方にとっては、持病が悪化したり、肺炎などの細菌感染症を合併したりといったリスクがあります。
現在流行しているのは、インフルエンザA型の一種であるAH1pdm09というタイプのウイルスです。
このウイルスは2009年に流行し、当時は「新型インフルエンザH1N1型」と呼ばれていた型で、パンデミック(pandemic)と2009年から「pdm09」です。
ここ数年間、インフルエンザウイルスと接触する機会が減り、インフルエンザウイルスに対する免疫力が低下したことも、今年の流行の要因となっていると考えられています。
抗原検査の解釈におけるポイント
インフルエンザの検査といえば、まずイメージするのは抗原検査だと思います。鼻咽頭の粘膜のぬぐい液を用いて行う検査で、10分から15分で結果が出ます。この抗原検査ですが、その結果の解釈について、いくつか注意点があります。
まず、抗原検査の特異度(疾患を有していない人が検査陰性になる確率)はほぼ100 %です。
つまり、抗原検査が陽性である場合、インフルエンザであることはほぼ間違いないということです。言い換えると、確定診断のために抗原検査は有用です。
一方、抗原検査の感度(疾患を有している人が検査陽性になる確率)は高くありません。ある報告(感染症誌2021;95:9-16.)では、感度は54.3 %でした。これは、インフルエンザの人が10人いたとして、その中で検査が陽性となるのは5~6人ということです。10人のうち4~5人は偽陰性ですので、検査が陰性でもインフルエンザを否定することはできません。
結果を解釈するうえで、検査を行うタイミングも重要です。症状が出てから時間が経つほど、感度は高くなります。
先の研究(感染症誌2021;95:9-16.)では、発症から検査実施までの時間が12時間未満なら感度38.9 %、12~24時間で感度40.5 %、24~48時間で感度65.2 %、48時間以上で感度69.6 %でした。
尚、38℃を超える高熱など、症状が比較的強い場合には、早く陽性になりやすいようです。
AIが診断?「nodoca®」について
インフルエンザの人では、のどの奥に「インフルエンザ濾胞」と呼ばれる所見があらわれることがあります。
インフルエンザ濾胞は、直径2mm程度の小さなリンパ濾胞で、淡赤色で「イクラ」様の光沢があることが特徴です。
発症早期(7~8時間)から認められることが知られています(Postgrad Med J.2015;91:425.)。
このインフルエンザに特徴的な咽頭所見を応用したAI搭載医療機器が近年登場しました。アイリス社の「nodoca®(ノドカ)」です。
nodoca®は50万枚以上の咽頭画像データベースを元に開発されたAIを搭載したカメラで、咽頭画像と体温や自覚症状などをAIが解析し、インフルエンザらしさを判定します(「検出あり」か「検出なし」)
。
のどの奥の写真を撮るだけなので、患者さんの痛みが少なく、判定開始から数秒〜十数秒で判定結果が出ます。
発熱初日でのnodoca®の感度(疾患を有している人が検査陽性になる確率)は約80%と、発症早期の診断に強い可能性が示されています。nodoca®はインフルエンザの検査として保険適用となっています(ちなみに、現時点では当院で実施することはできません)。
さいごに
インフルエンザの検査について、従来の抗原検査と近年登場したAI搭載医療機器を紹介しました。ただし、あくまで検査は「診断のための補助」であり、検査結果だけで診断(インフルエンザの有無)が決まるわけではありません。
症状の経過や周囲の感染状況といった情報や、のどの観察をはじめとした身体所見と、検査を組み合わせることで、診断の確度が高まると考えています。
年末年始の流行はピークを越えつつありますが、このあとインフルエンザBが春先にかけて流行る可能性もあり、もうしばらく注視するのが良さそうです。とはいっても、自身の免疫力を高めることが最善の予防策です。そのために、栄養と休養をしっかり取り、さらに機嫌良く過ごす(ストレスを溜めない)ようにしてくださいね。
まだまだ寒い日が続きますが、元気に冬を乗り切りましょう。
2025年1月23日