暑さが少し和らぎ、日によっては肌寒く感じる時もある今日この頃です。気温の日内変動、寒暖差が大きいと、血圧は高くなりやすいことが知られています。実際に日本で季節ごとの血圧変動をみた研究(Hypertension Res.2017;40: 284-290.)で、冬季は夏季に比べて収縮期血圧(上の血圧)が約7mmHg、拡張期血圧(下の血圧)が約3mmHg高かったと報告されています。
血圧を測ると高い数値が出て、驚いて何度も測るとますます高くなって‥という経験をしたことがあるかもしれません。
不安や緊張で交感神経が高まると、血管が収縮して血圧が高くなります。そういう意味では「毎日測るだけで良くなる法則(第20回)」は、血圧には当てはまらなさそうです。血圧は1分1秒で変化するので、1回1回の数値には一喜一憂しない方が良いと思います。
前置きが長くなりました。今回は、意外に思われるかもしれませんが、カリウム摂取が血圧に良いという話です。
高血圧の基準にまつわる混乱?
本題に入る前に・・「高血圧の基準が140/90mmHgから160/100mmHgに変わった?」ということが少し前に話題になったのはご存知でしょうか?これは、全国健康保険協会(協会けんぽ)が重症化予防事業として実施している「未治療者に対する受診勧奨」の基準が、令和6年4月から140/90mmHgから160/100mmHgに変更されたことがきっかけのようです。
この「収縮期血圧≧160mmHgまたは拡張期血圧≧100mmHg」というのは、特定健診などにおける受診勧奨(すぐに医療機関受診を)の基準で、そもそもこの数値自体は以前から変わっていません。なので160/100mmHgという数値だけが1人歩きして誤解を招いた、というのが実際のところです。
過去の研究において、脳卒中や心臓病との関連がある値が高血圧の基準(≧140/90mmHg)だったり、またそれらのリスクを軽減するための値が目標血圧(下図)だったりしますので、これらの数値はそうそう変わることはないと思います。
■降圧目標
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
・75歳未満の成人 |
130/80mmHg | 125/75mmHg |
・75歳以上の高齢者 ・脳血管障害を併存 (両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価) ・慢性腎臓病を併存(蛋白尿陽性) |
140/90mmHg | 135/85mmHg |
参照:高血圧治療ガイドライン2019
血圧とカリウムについて
高血圧治療といえば「まずは減塩!」といわれるように、血圧に塩分(ナトリウム)が関連するというのはよく知られています。
ナトリウムは体内に水分を保つ作用があり、そのため血管内の血液量が増加して血圧を上昇させます。
一方、カリウムは腎臓でのナトリウムの再吸収を抑え、尿中へのナトリウム排出を促進することで、血圧を下げる効果があります。
2024年9月に発表された欧州心臓病学会が高血圧診療ガイドライン2024の中で、初めて「カリウム摂取の推奨」について言及されました(European Heart Journal.2024;45:3912-4018.)。来年に改訂予定の日本の高血圧治療ガイドラインでも、カリウム摂取を意識した食事療法が推奨される流れではないでしょうか。
ちなみにカリウムは、果実、野菜、海藻や山菜、芋類や豆類、種実類に多く含まれます。生鮮食品に多く、加工や精製が進むと、カリウムの含量は減少します。
またカリウムは水溶性なので、出汁やスープから摂取することもできます。
尿ナトカリ比について
つい先日(10月8日)、日本高血圧学会から「日本人のための尿ナトカリ比の目標値と適切な評価方法を提唱するコンセンサスステートメント」が発表されました。
尿ナトカリ比とは、尿中のナトリウム量とカリウム量の比のことです。食事から摂取したナトリウムとカリウムは、ともに大半が尿から排出されることから、それらの比は、減塩やカリウム摂取増加の指標として活用できる可能性があります。実際に日本人を対象にした研究において、尿ナトカリ比が高いほど高血圧リスクが高い(Hypertens Res.2022;45:866-875.)ことや、尿ナトカリ比が高くなるにつれて脳卒中リスクが高まる(BMJ Open.2016;6:e011632.)ことが示唆されています。
尿ナトカリ比は、高血圧の予防、さらには高血圧をもつ人の治療における食事療法の指標として、今後ひろがっていくかもしれません。
さいごに
減塩のみならずカリウムをしっかり摂取することが、高血圧の予防や治療に有効である、ということを紹介しました。
カリウムはたくさん摂取しても腎臓から排出されるので、基本的に摂取基準の上限がありません。ただし、腎機能が低下している人ではカリウムがうまく排出できないので、カリウムを摂取し過ぎると体内に溜まってしまうこと(高カリウム血症)があります。高カリウム血症が進行すると、命に関わる不整脈が出る危険があります。
適切なカリウム摂取量の目安については、主治医と相談されるのが良いでしょう。
2024年10月26日