前回の最後「春なので何かしてみませんか?」の流れで、今回は禁煙について書こうと思います。
はじめに、喫煙する人にとって「たばこ」とは何でしょうか。
好きな俳優やキャラクターへの憧れのかたち、リフレッシュするためのもの、友人や同僚とのコミュニケーションのためのもの・・喫煙をはじめたきっかけは人それぞれ異なっても、現在喫煙している人にとって、たばこは生活の一部だと思います。
一方、「たばこ」に含まれる物質による健康への影響もみなさんご存知かと思います(※)。また受動喫煙(喫煙する人のそばでたばこの煙にさらされること)による健康被害も知られており、近年「分煙化」がすすんでいます。
喫煙との関連でいうと、主にがん、肺の病気、血管の病気が有名ですが、実は糖尿病の発症とも関連します。そもそもがんや血管の病気が起こるリスクを下げるというのは、糖尿病を治療する意義の重要な一つです。だから内科医、糖尿病内科医の立場として、喫煙されている方にはぜひ禁煙を考えてもらいたいのです。
なかには過去に禁煙を試みたことがある人もいらっしゃるでしょう。残念ながら挫折してしまった人は「自分の意志が弱いから・・」と思ったりしているかもしれませんが、それは違います。
脳がニコチン依存の状態に陥っている、すなわちニコチン依存症だから禁煙できないのです。ニコチンには強い依存性があり、それゆえにニコチン切れの症状(ニコチン離脱症状:頭痛、倦怠感、気分の落ち込み、イライラ、集中できない・・)が禁煙後数日をピークに出ます。ここを自力で乗り越えるのは至難の業です。
「ニコチン依存症を治療する」のが禁煙外来のコンセプトで、禁煙治療のための薬物療法と医療者のかかわりがその柱となります。
私は内科専攻医(初期研修医の後)の頃に呼吸器内科で禁煙外来を担当する機会があり、強い関心を持ちました。
禁煙学会にも参加し、以後もいくつかの病院で禁煙外来を行ってきました。
禁煙外来で処方できる薬(保険適応)は、現在はニコチネルTTSという貼付薬のみです。
これはニコチン置換療法と呼ばれ、ニコチンをゆっくり体内に入れることで、ニコチン離脱症状を軽くして禁煙を補助します。体内に入れるニコチンの量を徐々に減らし、8~10週後に投与を終了します。
ほかに経口薬(チャンピックス)もあったのですが、こちらは2021年6月~出荷停止の状態です。どうやら一部から発がん性物質が検出されたそうで、現時点で再開の目途は立っていません。チャンピックス出荷停止によって一時期ニコチネルTTSも品薄になり、禁煙外来にとって大きな影響が出たと言わざるを得ません。
現在ニコチネルTTSは十分な供給がなされているそうです。
厚生労働省の禁煙外来治療実態調査によると、禁煙外来(5回済)4週間後の禁煙率はチャンピックス79.1 %に対し、ニコチネルTTSで76.9 %とほぼ差がありません。また、2020年12月に禁煙治療用アプリCure App SCが保険収載、アプリを処方することが可能になりました。
禁煙外来にご興味のある方はお気軽にご相談ください。
最後に・・行動は直前の「きっかけ」によって起こりやすさが決まり、直後の「結果」によって定着のしやすさが決まる。
これは心理学の『人の行動が変わる時』に言われていることです。どんなきっかけでも、禁煙を決心したことに私たちは敬意をもって応援します。そして、禁煙して良いこと・良かったことが必ずあるので、その喜びを共有させてください。
※喫煙との関連が確実とされる病気
がん:肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝、膵、膀胱、子宮頸部
循環器:虚血性心疾患、脳卒中、腹部大動脈瘤、末梢動脈硬化症
呼吸器:慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸機能低下、結核による死亡
その他:糖尿病、歯周病 妊婦では乳幼児突然死症候群、早産、低出生体重・胎児発育遅延
喫煙と関連している可能性がある病気はさらに多いです。
(赤字は受動喫煙との関連が確実とされる病気)