先日(5月11日~13日)第66回日本糖尿病学会年次学術集会が鹿児島で行われました。残念ながら現地に赴くことはできませんでしたが、嬉しいニュースが入ってきたので報告させてください。
私が神戸大学在籍時に関わった研究で、公認心理師の高田綾子さんが発表された演題「Hybrid Closed Loop(HCL)療法を導入した1型糖尿病患者におけるQOLの変化についての検討」が医療スタッフ優秀演題賞を受賞しました。
「医療スタッフ優秀演題賞」は、医療スタッフの発表奨励を目的に2017年に新設されたもので、その多くがチーム医療を題材にした、素晴らしい演題ばかりです。審査口演に選出(ノミネート)されるだけでもハードルが高いわけですが、受賞されたと連絡をもらった時は、感激で目の前がぼやけました(年のせいか涙腺がゆるくなっています)。
そこで、今回は高田さんの発表について紹介させてください。概要を以下に記します。
背景
主に1型糖尿病をもつ方に適応となるインスリンポンプなどの先進機器は進歩が目まぐるしい領域の一つです。
現在最新のものは、持続血糖モニターのグルコース値に基づいて基礎インスリン量が自動調節される機能(オートモード)が搭載されています。これはHybrid Closed Loop(HCL)療法と呼ばれ、2022年1月に登場しました。
目的
HCL療法が1型糖尿病をもつ方のQOL(生活の質)指標、すなわち満足度や負担感にどう影響するかを調べました。
対象
神戸大学病院で2022年1月~5月の間で、従来のインスリンポンプ療法からHCL療法に切り替えを行った1型糖尿病をもつ方51名。
方法
QOL指標として、CSII-QOL質問票を用いました。これは28の質問から成り、利便性や社会制約、心理的負担などをスコア化して評価します。CSIIはインスリンポンプ療法のことですので、CSII-QOL質問票はインスリンポンプ療法に特化したQOLの評価ツールです。 HCL療法を導入する前と導入した半年後にCSII-QOL質問票に回答してもらいました。
主な結果
HCL療法を導入したあと、約半数の人でQOLスコアは改善しましたが、残りの半数は変化がないかむしろスコアは悪化しました。QOLスコアが改善した人ではHCL療法を導入する前のスコアは低く、逆にQOLスコアが改善しなかった群では元のスコアは高い傾向がありました。QOLスコアが改善した人では主に「心理的負担」の項、特に低血糖への不安に関する質問に対する回答の変化(改善)がみられました。
インスリン量を自動調節する機能によって、低血糖への不安が軽減したと感じる人がいる一方で、「自分でインスリン量を調整できない」ことを不便に感じた人もいるといったところでしょうか。
新しくて便利そうに思える機器でも、患者さん一人一人の感じ方は異なることを再認識することができました。
「新しいから良い!」の先入観は良くないということです。現在の治療への思いに耳を傾け、治療法が変わった後もこまめに状況を確認することが大事、というのが本発表の一番のメッセージだと思います。
糖尿病治療において、「血糖値を良くする」ことが目標であることは言うまでもありません。ですが、その治療が継続できなければ意味がありません。満足度の高い治療や負担の小さい治療、つまり「治療のQOLを高める」ことも糖尿病治療の大切な目標だと思います。そのために、一人一人のライフスタイルや価値観に耳を傾け、寄り添いつづけることを忘れないようにしたいです。