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院長ブログ23-睡眠薬を飲むと認知症になる?!|糖尿病内科 むらまえクリニック

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23
「睡眠薬を飲むと認知症
になる?!」

日々診療を行っていると、睡眠に関する悩みを抱えている患者さんがそれなりにいらっしゃいます。
その一方で「認知症になりやすくなるから睡眠薬は飲みたくない」と言われたり、「自分が飲んでいる睡眠薬は認知症の危険があるか?」と聞かれたりすることが時々あります。
どうやらテレビや雑誌から得た情報のようですが、本当かどうか気になっていたので、調べてみることにしました。

 

不眠と認知症

睡眠薬との関連の前に・・睡眠は記憶の整理や定着のために重要であり、「不眠」そのものが認知症のリスクになることが知られています。認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβが蓄積することが原因と考えられています。
慢性的な不眠は、脳内にアミロイドβの蓄積や炎症を引き起こし、認知機能の低下につながる可能性が報告されています(Sleep.2019;42:zsz114.)。

睡眠薬を飲むと認知症になる?!のイメージイラスト
実際に、アメリカの高齢者2800人ほどを対象にした研究において、睡眠時間が5時間未満の人は7~8時間の人に比べて、認知症リスクが約2倍でした(Aging.2021;13(3):3254-3268.)。

 

睡眠薬と認知症

本題に入っていきます。「睡眠薬の使用によって認知症のリスクが高くなる可能性がある」という報告は実際にあります。
1000人以上のフランス人(平均78才)を対象に15年間と長期に追跡し、睡眠薬使用と認知症発症との関連を調べた結果、睡眠薬を服用していた人では、服用していない人に比べて認知症を発症するリスクが1.5倍(4.8 % vs 3.2 %)でした(BMJ.2012;345:e6231.)。
別の研究では、睡眠薬の服用期間が長い(累積用量が多い)ほど、認知症を発症するリスクが高くなる可能性があると報告されています(BMJ.2014;349:g5205.)。

ただし、睡眠薬使用と認知症リスクには関連がなかったとする論文もあり、結論が出ていないのが実情のようです。
さらにもう一点、先ほど紹介した研究は、睡眠薬といっても「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」の話です。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、抑制系であるGABA(γ-アミノ酪酸)の神経伝達を亢進させることで、催眠・鎮静・抗不安作用をもたらす、いわゆる“昔ながら”の睡眠薬です。

 

オレキシンとオレキシン受容体拮抗薬について

ここからはベンゾジアゼピン系睡眠薬とは異なる睡眠薬「オレキシン受容体拮抗薬」の話になります。
この薬の元となったオレキシンは、1998年に脳内から発見されました。ちなみにオレキシンを発見したのは日本人です(柳沢正史先生と桜井武先生)。
オレキシンは食欲中枢で見つかったこともあり、当初は食欲に関連すると考えられていました。
その名もギリシャ語で食欲を意味する「orexis(オレキス)」が由来です。のちにオレキシンは睡眠に関わることが解明され、「覚醒中枢(覚醒を維持する)」をサポートすると考えられています。
空腹時はオレキシンが活発に働き、満腹になるとオレキシンの活性が低下することが分かっています。
つまり「満腹になると眠くなる」という現象にはオレキシンが関わっているわけです。

このオレキシンを応用したオレキシン受容体拮抗薬が2014年に登場しました。
オレキシンが受容体と結合するのを阻害し、オレキシン活性を低下させることで睡眠を促します。
日本では現在、2剤(ベルソムラ、デエビゴ)あります。
従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬は、抑制系を活性し(脳の活動を抑える)、さらに依存性が懸念されます。
それに対してオレキシン受容体拮抗薬は、覚醒・睡眠のシーソーをゆっくり睡眠に傾けるようなマイルドな作用が期待でき、また依存性もないと考えられています。

睡眠薬を飲むと認知症になる?!のイメージイラストさらに、オレキシン受容体受容体拮抗薬が認知症のリスクを下げるかもしれないといった研究結果が少し前に報告されました。45~65才の38人をスボレキサント(ベルソムラ)群とプラセボ群に分け、脳脊髄液中のアミロイドβとタウのリン酸化レベルを評価したところ、スボレキサント(ベルソムラ)群でアミロイドβとタウのリン酸化レベルが低下していました(Ann Neurol.2023;94(1):27-40.)。
アミロイドβの蓄積やタウのリン酸化はアルツハイマー型認知症の原因と考えられているので、オレキシン受容体拮抗薬がこれらを下げるということは、認知症を予防する方向にはたらく可能性があります。

 

さいごに

今回は認知症との関連の話をしましたが、心身ともに健康に過ごすために、量・質ともに良い睡眠が大切であることは言うまでもありません。不眠が認知症の初期症状である場合がありますので、睡眠のことで悩んでおられる方はかかりつけ医に相談してみてはいかがでしょうか。
良い睡眠のために生活の中で心がけた方が良いこと(非薬物療法)について、そのうち取り上げたいと考えています。

2024年11月26日